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大阪高等裁判所 平成10年(ラ)964号 決定 1998年12月09日

抗告人 内海幹子

事件本人(保佐人) 塩田公一

主文

原審判を取り消す。

本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。

理由

第1本件抗告の趣旨及び理由

別紙即時抗告申立書記載のとおりである。

第2当裁判所の判断

1  抗告人の保佐人解任申立

抗告人は、次のように主張して事件本人の解任を求めた。

(1)  事件本人は、昭和56年1月22日、準禁治産者関谷光の保佐人に就任した。

(2)  抗告人は、光の姉である。

(3)  事件本人は、昭和58年12月、件外○○建設株式会社との間で、光所有の土地について、光の代理人として賃料当初2年間月額8万円、その後月額10万円、目的資材置場とする土地賃貸借契約を締結した。しかし、契約当初保証金も受領せず、13年間も賃料値上げもせずに放置し、管理を怠っている。ちなみに、近隣土地の賃料相場からすると、適正賃料は月額36万円になる。

(4)  事件本人は、○○建設からの賃料を受領しながら、この15年間光に一円も渡していない。また、光に対し一度もその収支明細の報告、説明をしていない。受領総額と金利を合わせると2000万円を超えるのに、極めてずさんな対応をしている。

(5)  抗告人代理人が光から委任を受けて財産目録の交付を要求したが応じない。それらの対応からすると、事件本人が、前示の賃料の一部を横領した疑いがある。

2  原審判の理由

原審判は、次のように判断して抗告人の申立は理由がないとした。

(1)  抗告人は、事件本人に任務違背があるというが、保佐人の任務は、民法12条列記の行為に対する同意のみであり、代理権も財産管理権も含まれない。そして、事件本人に不当な同意拒否等光との信頼関係を破壊する任務違背があったとは認められない。

(2)  なお、事件本人は光の土地賃貸借契約に関与し、賃料を受領して管理していると認められるが、これは光との別途の約定によるもので、保佐人としての地位に基づくものではない。その管理行為に不適切な点は認められず、横領行為もなく、光との信頼関係は維持されていると認められる。

3  当裁判所の判断

原審判の上記判断を是認することはできない。その理由は次のとおりである。

(1)  保佐人が、自ら準禁治産者との間でその重要な財産について任意に管理委任等の契約を締結し、管理処分行為を行うことは、民法847条2項に照らし、それ自体、保佐人の任務と抵触する利害相反行為に当たる可能性がある。仮にその点を措いたとしても、保佐人が準禁治産者の代理人となり第三者と契約を締結し、金銭の受託を受けこれを管理している以上、その契約締結や管理行為に不当な点があれば、保佐人の任務に適しない事情(民法847条、845条)の一つとして、保佐人の解任事由になりうる。

(2)  原審は、事件本人に管理行為に不適切な点はないと判断しているが、これについて具体的な事実の調査がなされていない。家庭裁判所調査官は準禁治産宣告及び保佐人選任の決定書を取り寄せ、申立人及び申立代理人から事情を聴いただけで、どうしたことか事件本人及び光の調査をしていない。土地賃貸借契約への関与の態様、受領した金銭の具体的な管理状況や光への報告の有無については何ら調査されていない。これらが保佐人の任務におよそ関係ないと判断したのであれば、(1)のとおり誤りである。

(3)  原審は、抗告人の申立により「関谷光代理人塩田勇一」名義の銀行預金口座について調査嘱託したが、名義人の同意がないとして断わられている。前示の家庭裁判所調査官の調査では、その結果、抗告人の主張を証明する何らの資料がないので、横領行為もないものと認められるとしているが、相当でない。受託金口座の状況などは、これを開示することが光の利益に反するなどの特別の事情がない限り、本来、事件本人において積極的に明らかにすべき事柄である。

(4)  ちなみに、当審において送付を受けた前示預金口座の記録によると、平成5年8月27日の預金残高は155万円余で、それまでに950万円ほどの払出しがなされた計算になる。また、平成10年8月27日の預金残高は458万円余で、その間に298万余円の払出しがなされている。

(5)  なお、一件記録によると、前記土地の賃借人と光の関係、光が申立代理人に委任したという経緯、光と申立人の関係、光の所在不明など、本件申立の背景にはかなり複雑な事情がうかがわれなくもない。そうだとすると、それらの事情との関係を見極めない限り、本件について適切な判断をすることは困難である。

4  まとめ

事件本人について、保佐人の任務に適しない事由があるか否かについては、3(1)の判断を前提として、さらに、事実関係を審理する必要がある。

第3結論

そこで、当裁判所は、原審判を取り消した上、さらに事実関係を審理させるため、これを大阪家庭裁判所に差し戻す。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 紙浦健二)

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